放射線治療を繰り返す必要性

 放射線が細胞内のDNAに照射されると、そのDNAを断片化し、最終的にはその細胞を破壊すると書きました。しかし実際にはDNAとしてしっかり組み上がった細胞を壊す場合と、今まさにそのDNAを複製しようとしている細胞では、放射線照射の効果が違ってくるはずです。

 建築中の家と建築済みの家のどちらが壊しやすいかを考えてみれば分かることですが、当然今まさに建築中で骨組みしかないような家の方が壊しやすいと言えます。

 細胞でもこれはまったく同じで、分裂が終わっている細胞よりも、今まさに分裂しようとしている細胞の方が、放射線の影響は大きくなります。

 特に放射線がDNA合成に大きな影響を与えると考えると、分裂する前の準備段階である、DNAを合成している時期への照射が最も効果的であることが推定できます。

 ところが、「細胞分裂の過程と周期」のページで説明したように、個々の細胞はいくつかの時間的経過を経て分裂していきますので、ある時たまたま放射線を照射しても、その時たまたまDNA合成過程にあった細胞は大きな影響を受けますが、それ以外の過程にある細胞は余り大きな影響を受けません。

 これは例えば広大な畑があって、そこに草が生い茂ってきたので、この草を除草剤で枯れさせてしまおうという試みに似ていると思います。

 ただこの除草剤の特徴は、「花が咲く直前に撒くともっとも効果が出る」と仮定します。

 当然畑の中にある草は様々な段階にあるわけで、ある草は根を張り、ある草は茎を伸ばし、ある草は葉を茂らせ、そしてある草はつぼみをつけ、またある草はすでに種を作っている、という状態にあるわけです。

 そこへ除草剤を1回撒くと、確かにつぼみを付け始めた草は一網打尽に枯れてしまいますが、その他の草は生き残ります。残った草を枯らせるためには、再度その草がつぼみを付けた時期を見計らって除草剤を撒く必要があるわけです。

 放射線治療もこれを同じ事がいえるわけで、放射線照射によってDNA合成が阻害され細胞が破壊されても、その他の段階にある細胞は生き残っている可能性があります。

 そこで、放射線照射は、該当するリンパ細胞の細胞周期を考えながら、ベストのタイミングで照射を繰り返す必要があるわけです。つまり放射線で治療する日程は、細胞周期に関係していると言えます。従って患者の都合でその日程をずらすことは避けた方が良いという結論になります。

 ちなみに抗ガン剤についても同様で、また新たに説明したいと思いますが、やはり抗ガン剤も細胞に大きな影響を与える時期は決まっているため何回も治療を繰り返す必要があるわけです。(これがクールと呼ばれるものです)


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