体細胞分裂の過程と抗ガン剤

 抗ガン剤がその効果を発揮するのは、細胞分裂をしている過程であるということが、抗ガン剤の種類を調べていてよく分かりました。

 と言うことは抗ガン剤がどのように効くのか、と言うことを調べるためには細胞分裂の過程をきちんと知っておかないといけないなと思うようになりました。

 私は高校で物理を専門として教えていますが、最近は化学や生物、地学といった分野も教える機会が増えました。その関係で生物についても、基礎的な知識は持っていますし、実験も行っています。

 その中で、生物の最初の頃に体細胞分裂の過程という項目があり、ここで体細胞分裂の流れを勉強します。教科書には動物細胞、植物細胞それぞれについて8枚ぐらいの絵や写真が掲載され、その過程がはっきりと示されています。

 このこと自体は凄く分かりやすいので、「なるほどな」と思ってみているのですが、ではそれを実際に目で見てみようという話になるとなかなか大変です。

 この実験は、一般的にはタマネギの種を使います。種を水に浸して発芽させると根が伸びていくので、この先端は細胞分裂が活発に行われているということになります。

 この先端を切り取り(根端細胞と言います)薬品で柔らかくして染色し、さらに押しつぶし平面状態にしてから、これを顕微鏡観察します。だいたい100倍から400倍ぐらいの光学顕微鏡で、細胞分裂が行われている様子を観察することが出来ます。

 ところが生徒は細胞そのものを見つけることは出来ますが、細胞分裂をしている最中の細胞を見つけることはなかなかできません。

 視野の中に細胞はいっぱい見えているのですが、今まさに細胞分裂をしていて染色体がはっきり見える細胞はひじょうに少ないからです。(慣れてくるとすぐ分かるのですが、生徒は初めて見るので無理ないと思います)

 当初私も勘違いしていましたが、根の先端は活発に細胞分裂をしているので、先端さえ見ればそこは分裂している細胞ばかり見えると思っていました。

 ところが以前にも書いた細胞周期、という考え方によれば、細胞分裂はその分裂に至るまでの準備期間が実際に分裂を行う期間に比べてひじょうに長いため、、どうしても準備期間中の細胞が視野の中に多くなります。

 つまり例えば仮に細胞分裂の全過程が20時間かかるとしても、その準備期間は19時間で、実際の細胞分裂は1時間ぐらいで終わってしまうと言うことです。

 と言うことは、顕微鏡で観察しても20分の1の細胞だけが分裂過程に入っていることになり、視野に100個の細胞が見えたとしても、その中で実際に分裂過程に入っているものは5個しかないという事になります。

 このことを抗ガン剤に置き換えて、抗ガン剤は細胞分裂時に最大の効果を発揮すると考えると、ある特定の時間に抗ガン剤を入れたとしても、それが効果を発揮する細胞は20分の1しかないと言うことになります。

 つまり10000個のガン細胞があっても50個にしか抗ガン剤の効果が出ないと言うことです。

 しかも抗ガン剤が実際に分裂している過程のある瞬間しか最大限の発揮しないと考えると(例えば染色体が分かれるとき等)、更にその対象となる細胞数は減ってしまいます。そのために、抗ガン剤はいくつかの種類を組み合わせ、さらに何回も繰り返して投与するという必要性が出てきます。


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