抗ガン剤の治療効果と多剤併用

 抗ガン剤はガン細胞が細胞分裂をしているときに投与されるともっとも効果があります。ただし細胞分裂をしている細胞は、ガン細胞以外にも体内のいたるところにありますから、それらすべての細胞が何らかの影響を受けることになります。

 その結果薬自体が持つ神経毒の作用以外に、吐き気や脱毛等の不愉快な副作用が生じるわけですが、実際の医療現場では、ガン細胞への効果と副作用出現の体への影響を秤にかけて治療が行われているはずです。

 現在医療現場で使用されている抗ガン剤の種類は100以上あるみたいですが、当然それぞれ少しずつその作用が異なり、またそれを受ける患者側の体質も一人一人異なるため、その副作用の出方も変わります。

 Aという抗ガン剤は、ある人にとってガン細胞に大きな効果があり、しかも副作用が小さい事が分かっても、それをそのまま別の人に投与したとき同様の効果が得られるとは限らず、激しい嘔吐に襲われる可能性もあります。

 また抗ガン剤そのものの性質として、ガン細胞への影響力より副作用の出方(毒性)が激しいものもあります。つまり薬効が10ある薬の中で、ガン細胞への影響が10あって、副作用が0という薬があれば理想ですが、現実にはガン細胞への影響が6で副作用が4とか、場合によってはガン細胞への影響が3で副作用が7というような薬効をもたらす薬も存在するわけです。

 しかもその薬効の10は投与量にも依存しているはずで、多くなれば当然薬効も増えますが、それ以上に激しい副作用が生じる可能性もあるわけです。

 そうゆう状況がありながらも、放って置いたら命に関わるかもしれないガン細胞の増殖を少しでも抑えるために、多少の副作用は我慢せざるを得ないというのが、現在の抗ガン剤の実情だと思います。

 そこで医療現場としては、本来ならガン細胞に一番効く抗ガン剤を大量に投与すべきところを、それでは副作用により患者さんの体力や精神力が先に参ってしまう可能性が高いので、いろいろな種類の抗ガン剤を組み合わせることになります。

 つまりAという抗ガン剤は吐き気を催すが、この程度の使用なら我慢できる、または制吐剤でコントロールできる、という限界の量を投与し、足りない分はBという抗ガン剤を投与し、その場合の副作用は脱毛ですが、これはいずれ生えてくると言うことで、患者さんに納得してもらう。

 Cと言う抗ガン剤は、手のしびれや口内炎が出来る可能性があるが、手のしびれは治療が終われば消えますし、口内炎はうがい薬等で対処すれば良い。

 というようなことを考えて、または過去の臨床例から判断して、複数の薬剤を使うことによって、抗ガン効果という部分を強調し、副作用という部分を薄めるために多剤併用を行っているのかなと思います。

 またこの時、使用する薬剤の選択は、その作用機序がDNAを断片化するとか、RNAの合成を阻害するとか、酵素の働きを妨害するとか、細胞分裂の過程の中のいろいろな部分に作用するように役割分担をさせれば、さらに高い抗ガン効果が得られる可能性があるわけです。


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