完全寛解に向けて

 第14章では血液に関する基本的な知識と、分かる範囲での悪性リンパ腫の原因を考えました。

 その結果は、ウイルス、放射線、化学物質、ストレス、等々様々なことが考えられ、さらにその他に単なる細胞分裂時のミスコピーと言うこともありますから、基本的にどれが原因であるとは言えない、という情けない結論です。

 さらに言うと、例えば放射線によって遺伝子が傷ついたと仮定しても、それが何故自然死(アポトーシス)にいたらずガン細胞になるのかとか、化学物質が原因だと言っても、ではその化学物質と該当細胞がどのような化学反応起こしてガン細胞になるのか、そしてこれもまた何故その細胞は自然死に至らないのか。

 それらの特異な細胞をどうして免疫細胞が見逃してしまい、増殖してしまうのか、と言うことが分からずじまいでした。

 一方、健康な体を維持している人でもガン細胞は常に生まれているが、それは自然死や免疫細胞のはたらきで増殖できないんだ、という説明もありますが、では何故特定の人だけが、ガンを発症するのか。

 様々なことを一つ一つ突き詰めて考えていくと、実に不思議なことばかりですが、医療現場では、単に不思議がっていては治療が進みません。

 そこで現在の病気の段階を調べるための様々な検査について第15章でまとめてみました。しかしまとめながら、自分の妻の検査結果を告げる医師達の雰囲気を思い出すと、検査が精密になった分、患者への思いやりみたいなものが失われたかなと言う感じもします。

 要するに最近の病院では、これらの検査結果はすべて数値化され、コンピューターで表示されるので医師は患者の方を診ずに、コンピューター画面に現れた画像や数字を診て診断を決定し、その対処について考慮するわけです。

 ということは、目の前に患者さんがいても、目はコンピューターを見ていますから、本当の意味での患者の様態や雰囲気が分からないままに、つまり患者さんの性格や病気に対する考え方はとりあえず置いておいて、数字と画像から治療方針を決定すると言うようなことがなされているようにも感じました。

 第16章では、化学療法についてまとめました。16章全体のまとめは章の最後に書きましたが、個々の患者さんにとってベストの化学療法を選択するのは、ものすごく難しいんだろうなとは思えます。

 そのため、基本的には一番良く効果があると思われるCHOP療法が選択されるわけですが、同様に1回1回の薬剤投与量はどのくらいにするかとか、クールを何回繰り返すかということも過去の経験から推測して行っているわけです。(フローチャートがあると聞いています)

 しかし、たとえば患者さんが前向きに考えているとか、意気消沈しているという特性はあまり考慮されていないような気がします。(主観的な表現ですから無理ないと思いますが)

 結果的に化学療法により、確かにリンパ腫細胞は減っていくのだと思いますが、同時に正常細胞も傷つきます。

 もしリンパ腫細胞がゼロになるような治療を行えば、当然正常細胞もゼロとなる可能性が高いはずで、その場合悪性リンパ腫の細胞は無くなったけど、正常細胞もなくなり、感染症等で命の危険が予想されると言うことになります。

 しかもやっかいなことに、リンパ腫細胞は、薬剤に対して少しずつ抵抗力を持つという考え方もあり、これに寄れば、いたずらにクールを繰り返しても、副作用だけが強くなり、リンパ腫細胞はほとんど減らないということになります。

 それでも中には寛解となり5年後も再発はないという患者さんがいるわけですから、その方達の体内には、残ったリンパ腫細胞を駆逐するメカニズムが働いていたという結論になります。

 ではその最後のリンパ腫細胞を駆逐するメカニズムは何か、と言うことですが、これはやはり自分自身が持っている細胞そのものが自然死にいたる何らかの化学作用と免疫系であるとしか思えません。

 と言うことは、強い化学療法でこれらの自然死へのメカニズムや免疫系のメカニズムも破壊してしまうと、完全寛解には絶対にいたらず、必ず再発するという結論になってしまいます。本当にそうなんだろうか?とこの文章を書きながら考えています。


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