造血幹細胞は血球の元になる細胞を作り出します。その後作り出された血球の元になる細胞は体の要請に応じて、足りない血球を補うように分化していきます。
つまり風邪をひいた場合は「白血球を増やしてくれ」とか、高地に移動したときは「赤血球を増やしてくれ」、傷を負ったときは、「大急ぎで血小板を作ってくれ」という指示がどこからか出され、それに応じて骨髄で血球が作られていくというイメージです。
悪性リンパ腫に関係するリンパ球の場合も、白血球の仲間ですから骨髄で作られます。このとき作っているのは、何回も書いていますが造血幹細胞です。
つまり造血幹細胞が血球の元になる細胞を作り出し、その細胞はその時のニーズに応じて赤血球になったりリンパ球になったりするわけです。
一方作り出した造血幹細胞は、自分自身の細胞構造は変化させずに、また新たに血球の元を作り出します。これは通常の細胞分裂とはまったく異なった細胞分裂の方法です。
さてリンパ球の場合ですが、骨髄で作られた後、どういう経路を経るのかよく分からないのですが(たぶん血管やリンパ管)、T細胞は胸腺、B細胞は脾臓やリンパ節に移動します。
この流れは
造血幹細胞 | → | リンパ芽球 | → 血管? |
T細胞(胸腺) | → 教育? |
全身へ |
B細胞(脾臓、リンパ節) | リンパ組織へ | |||||
白血病? | 悪性リンパ腫? |
となっているようですが、この流れの図が本当に正しいのかどうかは自信がありません。ただ言いたいことはこの図の流れのように、悪性リンパ腫になり得る細胞は、造血幹細胞から始まって、最後に成熟したB細胞やT細胞になる、様々な段階で異常が起きる可能性があるということです。
つまり症状となってあらわれた悪性リンパ腫細胞が、いったい成長過程のどの段階なのかということが分からないと、有効な治療手段がないように思えるわけです。
上記の表では、造血幹細胞がリンパ球になるまでを簡単に書いていますが、病気になる可能性としては
・ 造血幹細胞そのものに問題がある
・ 造血幹細胞から生まれた直後に問題が生じた
・ リンパ芽球に問題が生じた
・ 血管を移動中に問題が生じた
・ 胸腺や脾臓、リンパ節内で成長過程にあるとき問題が生じた(一般的にはこれが多いような気もします)
・ 教育を終えたリンパ細胞が、仕事を始めた段階で問題を抱えた
等々、様々な過程が考えられると言うことです。またもしかしたら、そういった過程を経るように促す指示系統が乱れているのかもしれません。
つまりリンパ芽球がT細胞やB細胞に分かれる段階では、何らかの指示があるわけですが、その指示が乱れていれば、出来上がった細胞には欠陥が生じる可能性があるということです。
ということは、もし造血幹細胞や、分化の指示系統そのものが乱れていた場合、いくら出来上がった悪性リンパ腫細胞を化学療法で駆逐してみても、根本的な解決にならず、再発するという恐ろしい結果になります。
私の連れが入院して最初のCHOP療法が効果を表したとき、主治医は「化学療法の効果がありました」と嬉しそうに伝えてくれましたが、その後すぐに勢いが盛り返したため、「これはタチの悪い悪性リンパ腫の可能性が大きい」という言い方に変わりました。
この言葉が今も印象に残っていて、「タチが悪い」というのは、実はリンパ腫細胞そのものに欠陥があったわけではなく、それを取り巻く指示系統に問題があったのではないかという疑いを私は持っています。