抗がん剤の長所と短所

2016.7.27

 小野薬品工業が開発した「オプジーボ」という薬剤が脚光を浴びるとともに、その副作用で亡くなられた方がいるというニュースがありました。

 この薬は今のところ肺がん等の治療で好成績を上げているようで、2016年末には悪性リンパ腫のホジキンリンパ腫患者さんへの適応拡大が予定されているようです。

 というわけで、いったいどんな薬なんだろうという興味があって、新聞記事等に目を通してきました。最初の頃の新聞報道によれば、大変高額な薬品だが、その作用機序が従来の抗がん剤とは全く異なるということでした。

 さらにこの薬の副作用等がなぜ起きるのかという事も少しわかってきたので、まとめてみようかと思い立ちました。

 ただし、医学の勉強はしていませんので、あくまで個人的に知っている生物学の範囲の中での説明となります。

 従ってもしかしたら、全く解釈や説明が間違っている可能性もあり得ますので、そのことを踏まえて読んでいただければと思います。まず最初の通常の抗がん剤についてです。

 抗がん剤というは、毒を以て毒を制すという言葉の通り、人体にとっては場合によっては致命傷となりえるような毒物を使って、ガン細胞の分裂を阻害するというものです。

 また一口に細胞分裂を阻害すると言っても、細胞分裂のどの段階(過程)を邪魔するのかというのが問題になります。

 例えば個人的な考えですが、細胞分裂には以下のような段階が考えられます。

・ 細胞分裂を始めろという指示

・ 指示に従って分裂の準備を始めようとする段階

・ 分裂のための材料を集める段階

・ 実際に分裂が始まる段階

・ 分裂中の段階(この中にも紡錘糸の形成とか、染色体の形成と言った様々な段階があるのですが)

・ 細胞が二つに分かれようとする段階

 これらの細胞分裂は、細胞内の様々な酵素等の連携作用で行われると思われますが、その酵素等のはたらきを阻害することによって抗がん剤となりえます。

 つまり抗がん剤を多種使用するというのは、細胞分裂の各段階に対して、この段階にはこの抗がん剤という役割が決まっているのだと解釈しています。これが多種類の抗がん剤を併用する根拠です。波状攻撃と言っても良いかもしれません。

 しかし毒を以て毒を制すという言葉の裏側には、毒本来の作用もあるということで、これらの薬剤は正常細胞の分裂も阻害します。

 その結果、細胞分裂が盛んな場所での正常な細胞分裂に齟齬が生じて脱毛等の不愉快な副作用(副反応という言い方もあるみたいですが)が出現します。

 また正常な細胞の分裂を阻害するという事は、本来自分の体がもっている免疫系の細胞の細胞分裂も阻害するという事で、悪性リンパ腫の場合は白血球等の血球の数が著しく減少することになります。

 またもう一つ重大な欠点があります。それは、これらの抗がん剤は細胞分裂を行っている細胞を標的にしますが、各細胞は細胞分裂を行っていない時期もありますので、その時には抗がん剤をいくら投与しても効果はないという事になります。

 そこで抗がん剤治療というのは、時期を小分けにして、何回も何回も数か月に渡って薬を投与する必要性が生じます。

 しかし当然その間正常細胞も痛めつけられるわけですから、長くなればなるほど患者さんの体力は消耗することになります。

 その結果体力と抗がん剤の効果を見極めた統計的な実例から、この療法は何クール行いますという回数が決められているわけですが、再発等になると、徐々にそういった回数よりもがん細胞の増殖の勢いが強くなり、体力を削ってでも抗がん剤を投与するという事になることがあります。

 そうなると結果的に、これも確率だとは思いますが、ガン細胞は駆逐したけど、患者本人の体力が持ちこたえられなかった、という悲惨な結末になる可能性も出てきます。

 私の妻の例がこれに該当すると思っていますが、では抗がん剤治療を途中で中断すればどうなるかといえば、勢いを失いつつあったガン細胞の勢力が再び活性化する可能性があるわけで、この見極めが難しいのだと思っています。

 というわけで細胞分裂を阻害する抗がん剤の効果と欠点が明らかになってきたことで、それに代わる薬剤はないのかと研究が始まり、分子標的薬の登場になったと私は解釈しています。(続きます)


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