ハワイ行きの決意

 5月18日(日)、再発入院3日目。

 Yの希望で横浜へ日帰り旅行。我が家からは車で片道約1時間半だ。横浜ではシルク会館へ行き、アロハシャツの展示館を見学。ほんの少しハワイの雰囲気に浸る。続いて中華街で久しぶりの本格中華を味わう。

 帰宅後荷物をまとめて病院へ。さすがに疲れた。病院への途中、今後のことを少し話し、やはり夏のハワイをはずしたくないと意見が一致。こちらの意向を早期に主治医に伝えることにした。

 何といっても、本人にとってはハワイ旅行が病気と闘う大きな支えになっている。これを奪って治療のみに専念せよというのは、あまりに酷な条件だ。ましてや数ヶ月という長期間にわたって、抗がん剤と闘わなくてはいけないなら尚更だ。

 ハワイに行くことにより治療が長引き、病気が悪化するリスクは高まるのかもしれない。しかし一方で治癒への意欲は果てしなく大きくなるはずだ。勝負どころか。Yを病室に送り、複雑な思いを抱きながら帰宅。

 21日(水)、再発入院6日目。主治医が病室に来て、昨日の治療方針決定会議(カンファレンス)の結果について説明してくれた。最初にこれまでの経過説明があったが、これは省略。

 「今後の化学療法についてですが、これまでの薬剤を一部変更し、R―ACES療法を行いたいと考えています」

 「これはリツキサン、パラプラチン(白金製剤で、白金がDNA合成を阻害する。腎機能に影響が出る可能性もある)、ラステット、キロサイド(ガン細胞のDNAとタンパク質の合成を阻害する抗ガン剤。じんましん、結膜炎の副作用が出るときがある)、ソル・メドロール(ブレドニンに変わるステロイド剤)の五種類の薬剤を使います」

 ちなみに抗ガン剤の治療は、同じ薬効を持っていても薬の種類は変えていくのが治療の基本らしい。同じ薬では腫瘍細胞への効果が低くなるようだ。

 「期間は、6日間が1回の治療の投与期間となり、その後2週間薬剤なしの時期を経て、トータル3週間が1クールとなります」

 「現在の予定では、これを6クール実施したいと考えています。これで治療効果が現われるなら、将来的には抹消血幹細胞移植を行いたいと考えていますが、これは腎機能に影響が出るので、クレアチニンの数値を見守る必要があります」

 クレアチニンについては、なかなか正常値に戻らないので、私も不安に思っていた。やはり最初の高カルシウムの影響が残っているのだろう。

 それにしても6コースと一挙に期間が長くなったので、びっくり。Yと思わず顔を見合わせてしまった。そこでこちらから治療について質問と要望。

Q:「弱い化学療法を利用して、現状を維持しながら病気をコントロールするような方法はないのですか」

A:「高齢者に対しては、強い薬剤が使えないので、そのような方法を取ることもありますが、再発率が高くなります。また若い人の場合、リンパ腫の勢いが一気に増すことがあるので、この方法は使えません」

 (しかしほぼ5年後の今考えると、こういった方法でQOLを維持咲したほうが結果的には良かったように思える。この点については、いまだに病院の方針に不信感がある)

Q:「1年前から、治ることを期待して夏にハワイ旅行の予定入れていました。なんとしても行きたいと思っているのですがどうでしょうか」

A:「2クールを行い、病気への効果が確認でき、なおかつ治療効果が上がれば、一旦退院して旅行に行くことも可能かもしれません」

 治療経過で結論が変わるはずなので、医師も用心して答えていたが、本音は行かせたくないのだろう。言葉に力がなかった。

 説明終了後外出許可をもらい、昼食に出かけた。この先病院外へ出られる機会は極端に少なくなると思うと、何気ない話しや店が妙に印象に残る。もし認められれば、次の外泊は金曜日、朝食を外で食べたいというのが本人の希望。

 帰宅して、あらためて血液検査結果をコンピューターに入力したが、悪化したと思われる数値はほとんどない。本人が元気なのも頷ける。化学療法を支援するために、気の療法や漢方薬、代替療法についても調べてみる必要性を感じてきた。


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