放射線で治療するとは

 放射線治療とはいったい何をやっているのかということを、ここでまとめておこうと思います。

 放射線の基礎知識については、すでに原因を考えたときに「放射線の影響」というページでまとめています。基本的には原子核の崩壊が起きるときに放出される小さな粒(アルファ線、ベータ線)または、エネルギーの大きい(振動数の大きい)電磁波(ガンマ線やX線)であると考えれば良いと思います。

 これらの粒子または電磁波が飛んでくるとき、その先に細胞があると、普通は通り抜けてしまいますが、その飛んでくる量が多かったり、エネルギーが大きかったりすると、その経路の近くにある原子や分子も影響を受けることがあります。

 影響を受けた原子や分子が、たまたま正常な細胞を構成している遺伝子の一部だったりすると、その影響によって遺伝情報が破壊され、さらに細胞の増殖に関する部分だったりすると、分裂に歯止めがきかなくなり、増殖が際限なく続くようなガン細胞みたいな細胞が生成されたりします。

 東日本大震災によって福島第一原発が事故を起こしたとき、その放射線量が問題になったのは、こういった背景があるからです。

 ただし放射線にあたったからといっても、その放射線がそのまま体をすり抜ける場合も考えられますし、影響を受けたとしても既存のもう必要のないような細胞であれば問題は生じません。

 問題が生じるのは、今まさに分裂しようとしてDNAを複製する過程にあるような細胞に放射線がたまたまあたってしまった場合です。(そのことを考えて前ページで細胞周期の話をまとめました)

 放射線の影響が子供に強く出る、というのは子供自体が成長過程にあるため、体の中で活発に細胞分裂を行っているからで、要するに大人よりも影響を受ける確率が高いということです。

 一方、我々の体には免疫という作用があるため、通常とは異なる細胞が生成されても、普通はその瞬間に自滅してしまいます。(アポトーシスと言います)自滅しなくてたまたま生き残っても、他の免疫細胞がそれを発見し駆除します。従って放射線以外の理由でも同様ですが、遺伝子にミスコピーが起きても通常はガンは発症しない事になります。

 ところが、放射線の被ばく量が多いと、当然異常細胞の量も増える確率が高くなり、免疫がはたらく以上にガン細胞もどきが増えてしまい、免疫による駆除が追いつかなくなり、場合によってはガンを発症すると言うことになります。そこで、一応の目安しての被ばく量が決められているわけです。

 以上の話は放射線が悪い方向に作用する場合ですが、この放射線の性質を逆手にとって、今度は一方的に増殖しつつあるガン細胞の遺伝子を破壊し、ガン細胞の増殖を止めてしまおうというのが放射線治療の原理かと思います。

 しかし強力な放射線を照射すると、当然その付近にある正常な細胞も影響を受けますから、この治療はガン細胞自体がある程度かたまって存在していると言うことが条件になります。

 つまり胃ガンというように、胃の特定の部分にガンが出来ていれば、そこに集中的に放射線を浴びせ、その部分のガン細胞を破壊することが出来るわけです。

 ところが何回も書いているように、悪性リンパ腫の場合は、リンパ球そのものが全身に分布しています。従って、特定の部分に放射線を照射して治療をする、と言うことが難しいわけです。 

 ちなみに我が家の連れは最後の最後まで発生部位が特定できず、放射線治療は一度も行いませんでした。


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