悪性リンパ腫の化学療法が目指すこと

 前ページまでで、抗ガン剤の基本的な知識が得られました。ただしここまでの話はあくまで基本であって、抗ガン剤がリンパ腫細胞に対してどのような効果を発揮するのか、ということをまとめただけです。

 実際にまとめてみて分かってきたことですが、結局この悪性リンパ腫の化学療法というのは、現に出現している悪性リンパ腫細胞をともかくやっつけてしまおう、と言うのが基本理念になっているように思えます。

 我が家の連れの主治医だった医師は、この化学療法について、「ともかく早い段階で少し強めの治療を行ってリンパ腫細胞を叩いてしまいましょう」、というような表現を使っていました。

 その表現からも分かるように、要するに言葉は悪いですが、体の隅々まで抗ガン剤を行き渡らせ、リンパ腫細胞を徹底的に叩きつぶす(殲滅する)というのが、化学療法の目的なのかなと思えます。

 そのためには、血管内を流れるほとんどのリンパ細胞を、正常なものであろうが異常なものであろうが、とことんその細胞分裂を邪魔して、その数をいったんゼロに近いところまで減らすことを目的にしているように思います。

 ここでもう一度リンパ細胞が出来る過程を振り返ってみると、すべての血球の元は造血幹細胞であり、それがリンパ芽球、リンパ球となっていくわけですが、その中のどこかで異常なリンパ腫細胞が生まれていることになります。

 そこで造血幹細胞が細胞分裂を始めた瞬間からリンパ球に至るまでの間の分裂過程をすべて破壊して、いったんすべてのリンパ球をなくした状態から、再び造血幹細胞から正常なリンパ球だけが生まれるようにすれば、悪性リンパ腫の治療が出来たと言うことになります。

 つまり正常な細胞も異常な細胞もすべてを含めていったんリセットして、新たにきれいなリンパ球を再生する、と言うのが悪性リンパ腫の化学療法の意味かなと思えるようになってきました。

 これは例えばコンピュータウイルスに侵入されたパソコンが異常な動作を繰り返したとき、いったんハードディスクの中を、正常なプログラムと異常なプログラムを問わず、すべて消去してしまい、その後別に保管してあった起動ディスクから新たにプログラムを再インストールするのに似ているなと思えます。

 もちろん、コンピューターと人間では複雑さの次元がまったく異なりますから、人間の場合完全に殲滅すると言うことは出来ないはずで、リンパ腫細胞が残っている可能性があります。しかしそれについては自身の免疫細胞の活躍に委ねたり、この後説明するリツキサンの作用に委ねたりすることによって、新たなリンパ球を作り直すわけです。

 ただし、残存細胞があるにもかかわらず、免疫機能やリツキサン等の作用が完璧にはたらかなかった場合、それは再発の可能性、と言うことではないかと思えます。

 またこの考え方でいくと、造血幹細胞そのものに欠陥があった場合は、いくらその後のリンパ球をリセットしても、結局また新たなリンパ腫細胞が生まれてくることになります。

 この場合は質の悪い悪性リンパ腫ということになり、骨髄そのものや幹細胞そのものを取り替える治療が必要になってくるはずですが、これもまたこの先の話になります。


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