QOLを維持できればいいのですが

 医療関係やガン関係の書物を読んでいると、時々QOLという言葉が出てきます。英語で「Quality Of Life」と言い、その頭文字をとったものです。意味を直訳すると「生活の質」という言葉になります。

 医療上の概念として、ウィキペディアには


 長期療養を要する疾患、ならびに消耗の激しい疾患や進行性の疾患では、いたずらな延命治療、患者への侵襲が激しい治療を継続することによって、患者が自らの理想とする生き方、もしくは社会的にみて「人間らしい生活」と考える生活が実現できないことが自覚された。このような状況を「QOL (生活の質)が低下する」と呼んでいる。

 これに対して、患者が自身の尊厳をより保ち得る生活の実現を目的とした援助が重要であるという考え方が生じたのである。これを「QOL(生活の質)を維持する、向上させる」などという。

 というような説明が書かれています。長期療養というのは、まさに悪性リンパ腫の化学療法に該当すると思います。この中で化学療法を継続することによって、患者の負担が増し、一方で病気の改善の見込みが無い場合というのが最悪の状態です。

 生活の質を上げるためには、なんとしても骨髄抑制や副作用を少しでも抑えて、抗ガン作用を増す必要があるわけですが、我が家の連れの骨髄抑制や副作用の状況を見ていると、抗ガン作用を増せば骨髄抑制や副作用も増すという当たり前のことが随時起きました。

 それに対して、骨髄抑制の場合はG-CSFが処方され、嘔吐に関しては制吐剤が投与され、赤血球が減れば輸血が行われ、口内炎や皮膚疾患が起きれば、それぞれの疾患に対する薬が処方されると言う方法で対処していきますが、当初はせいぜいが下痢止めぐらいだった薬が、クールを重ねる毎に増えていきます。

 普段風邪薬も飲んだことがなかったような人間が、毎回10錠ぐらいの薬を飲み、点滴で薬剤を投与されている姿は、表面上いくら明るく振る舞っても、やはり痛々しいことに変わりがありません。

 そうゆう姿を見る度に、「いったいどうしてこんな病気になっちゃったんだろう?」という疑念がわき起こりますが、医療側は治療に手一杯で、もともと原因不明だと言うことが分かっていますから、こちらが聞いても、そのことをあまり熱心に説明してくれません。

 ただ「病気が悪化しないように」とか、「何とか少しでもリンパ腫細胞が消えるように、出来る限りのことはします」、という言い方をされるわけですが、その結果が激しい副作用を伴う化学療法ですから、何とも言えない虚しい思いがあります。

 生存曲線を見て、例えば5年生存率が60%というグラフがあって、その元になっている患者さんの病態が同じ段階なら、医療側は60%も生存していると胸を張るのかもしれませんが、患者や家族側は40%の人が亡くなっているという現実を突きつけられるわけです。

 ましてや、このちょっと強めの化学療法をやれば、半数の人の生存期間中央値が10ヶ月から1年に伸びますので、こちらの治療をやりたいと思います、という言い方をされたとき、患者側はどう思うか。その二ヶ月の間のQOLはどうなのか。

 医療側からは、たぶん、「やってみないと分かりません」という返事があると思います。確かに二ヶ月は延命効果があるかもしれないけれど、その間副作用で苦しみ抜く可能性も残されているわけですから、化学療法の選択は本当に難しいと思います。


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