転院直前

 翌6月17日(日)。入院9日目。

 疲れているが神経が高ぶり、相変わらず眠りが浅い。血圧も上昇気味だ。

 仕事は休みだが、早朝から目が醒めてしまった。そこで入院予定の大学病院を下見に行くことにした。我が家から車で20分ぐらいのところにあり、まだ出来たばかりで、建物も真新しい。一見した印象はひじょうに良かった。

 家に戻り朝食の準備。Yが体調を崩してほぼ一ヶ月が経過。この間家事のほとんどをこなしている。外食はしていない。学生時代1人暮らしをしていたことが今になって役立っている。

 炊事、洗濯、掃除はひととおりこなせる。ただ学生時代と違って、子供を1人育てつつ、仕事もしなければならないので、格段に忙しくなった。

 夕食後の楽しみだったインターネットや読書の時間は、ほとんどなくなった。土日に行っていた家庭菜園は草が伸び放題の状態だ。時間が少ない。休憩も欲しい。常にやるべきことの優先順位を考え毎日を過ごしている。

 10時過ぎに病室に行ってみると、熱は37.6度に下がり、咳が空咳になってきた。抗生物質の種類を変えたことが効果をあらわしている。しかし根本的な解決には程遠い。

 転院先の病院を見てきた話をして、いずれは分かることなので、思い切って、「今回の病気は一種のガンだから抗がん剤を服用する必要がある」と伝えた。

 (医師からは「転院先の科の名前を本人が見れば、すぐにガンに類する病気である」ことが分かってしまいますよ、という警告を受けていた)

 医師、看護士、家族との会話のはしばしからある程度予想していたのか「しょうがないね」という若干投げやりな返事だった。

 昼食のためいったんいったん家に戻り、午後再び病院へ行き、転院先病院への紹介状を受け取った。紹介状を受け取ったからといって、すぐに受け付けてもらえるわけではない、という説明も受けている。

 しかしもはや現在の病院ではこれ以上の処置は望めないので、1分1秒でも早く転院させ、落ち着いた環境で治療をしてもらいたい。そう考えて、月曜の早朝、できるだけ早く大学病院に出かけることにした。

 Yの様子は午前中よりさらに回復し、熱も36.9度に下がった。食欲も出てきてアイスクリームや果物のようなさっぱりしたものを欲しがる。

 この先の見通しが立っていないので、「欲しいものは何でも食べさせてやろう」という気になる。近くのスーパーに出向き、アイスクリームを買ってきた。「おいしい!」と言って食べている様子は普段と変わらないが、これからの治療のことを思うと、涙が出そうになる。


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