今後の見通し

 9月1日(土)、転院76日目。いつもの時間に病院着。

 Yの妹さんがDVDプレイヤーを持ってきてくれた。いろいろな映画を病室で見ることが出来るようになった。恰好の時間つぶしだ。

 だるさは若干あるものの体調はいいようである。熱もない。点滴はいつものソルデムとノイトロジン。舌の根元に若干違和感があると言っていた。

 主治医から私に呼び出しがあり、ここまでの経過を別室で説明してくれた。

 「現状ですが、肝臓の脹れが少し残っていますが、脾臓、腎臓の脹れはひいています。入院当初はステージWという重い症状で、ここまで体力とリンパ腫細胞の増殖とのギリギリのバランスで治療を続けてきています」

 「今後も合併症、臓器障害、血液関係の異常がおきる可能性は充分にありますが、全体としては抗がん剤によく反応して、ゆるやかな回復傾向です。それに伴って、今後他の患者さんの緊急入院時には大部屋に移動してもらうときがあるかもしれません」

 ギリギリのバランスで、ここまで到達できたという表現は、Yの毎日の容態を観察している私にとっては、まさに当を得た表現だった。

 衰えているYの体力を、さらに抗がん剤で殺ぎ落とすことがないように、細心の注意が払われて投薬が行われてきたのだろう。折角の機会なので、こちらからもいくつか質問した。

 「寛解とは、どのような状態を意味しますか」

 「目視で血液中にリンパ腫細胞がなくなった状態を寛解として考えています」

 「厳しい状態からの出発で、今後の見通しは」

 「残念ながらステージWの場合、一般的には治療5年後の生存率は低いのが現状です。現在でも急な発熱、臓器不全、合併症がいつ起きてもおかしくないという厳しい情況です」

 「最初に設定した治療期間が終了した後には、どのような治療が行われるますか」

 「あと一ヶ月ちょっとで予定した治療は終了します。その後はリツキサンのみで対処し、随時検査を行い、再発した場合は違う薬剤を使用して治療を行います」

 「再発の可能性はかなりありますか」

 「一般的には現在行っている治療で、ほとんどのひとが一ヶ月ぐらいではれがひきます。しかしYさんの場合は、全期間の三分の二が終わった時点ではれが少し引いた程度なので、全リンパ腫細胞をこの治療期間中に根絶するのはかなり困難だと考えています。従って、当然ながら再発の可能性が高いと思われます」

 かなり答えにくい質問も行い、良心的な主治医が返答を躊躇う部分も見られたが、最終的にはすべて率直に答えてもらった。

 中途半端で曖昧な回答より、はっきり言ってもらった方が、こちらの気持ちもすっきりする。しかしながら一部の回答は、回復傾向にある本人の状況からはかけ離れているように思え、快方に向かっていると信じているYに、そのまま伝える気にはなれなかった。


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