退院、そしてハワイ旅行へ

 7月10日(木)、再発入院60日目。主治医と退院前の話。

 「今回の治療はCyclo BEAP療法後の再発治療なので、骨髄抑制がひじょうに顕著です。そのため血小板がなかなか回復しません」

 「また左胸に、PET検査で丸いうすい影があることが分かりました。ただしその影が必ずしも生きている細胞とは限りません。痕跡の場合もあります」

 要するに血球の回復は遅いし、まだ完全に治りきっていないということだろう。さらに「肺の影がリンパ腫細胞と関係があるのか、今もってよくわかりません」というコメントだ。

 正直といえば正直だが、これでは患者、家族ともども不安を感じるだけだ。

 「石灰化はまだあります。炎症なら息苦しい筈ですが、そのような症状がありません。呼吸器内科専門医もよくわからないと言っています。初めての症例だと解釈しています」

 「腎臓は相変わらず弱っています。クレアチニンの値が下がらないのがその証拠です。(常に1前後ある)昨年の病気及び化学療法の影響だと考えられます。旅行中は、水分補給に充分注意してください」

 Yも私もまったく気が付いていなかったことを一つ指摘されてびっくり。
 
 「昨年入院前に肋骨を骨折していました。そこからリンパ腫が発生した可能性もあります。同じ場所からカルシウム亢進のホルモンが出ていました」

 どうやら知らないうちに骨折し治癒していたらしいが、自覚症状はまったくなかった。これも不思議な話だ。しかしそれはそれとして、実はこの骨折の炎症がYの悪性リンパ腫の発症の原因だった可能性がある。

 翌年の2009年5月の毎日新聞で、悪性リンパ腫は炎症から引き起こされることがあるという、画期的な研究成果が発表されていた。もしそうならば、この骨折に気がついていれば、こんな闘病生活を送る必要はなかったことになる。

 ただし骨折が引き金になった可能性はあるが、骨折したら必ず悪性リンパ腫になるということはあり得ない。

 その他のストレス、更年期障害、自然界の放射線、さらにはちょっとしたダイエットの実践や日常的に使わざるを得ない様々な化学物質が複合的に作用したと考えるのが妥当ではないかと個人的には考えている。

 話しを戻して、続いて肝心の旅行に行くに当たっての注意事項。

 「今回の療法はサルベージ療法(地固め療法とも言う)でR―ACESといいます。1クール終了後発熱しCRP26となりました。発熱性好中球減少症と言います」

 「そこで2クール目はキロサイドを通常の3分の2に減量しました。それでもすぐに輸血が必要なぐらい血球数が落ちました。再発細胞は頑強で、抵抗性もひじょうに強いので今後も十分な注意が必要です」

 これにはまったくその通りと頷くしかない。

 「もし全身状態が悪ければ、旅行は許可できないはずでした。私がこれまで治療してきた患者さんの中でも、今回のような治療途中の一時退院は過去に例がありません」

 「リンパ腫に対する化学療法は、ある一定の期間で六回治療を繰り返すことに重要な意味があります」と、さすがに主治医はちょっと悔しそうな表情を見せた。

 抗ガン剤の治療は、細胞の増殖周期に合わせているので、途中で中断すると治療効果が減少するということだろう。

 「今後、脳や神経中枢に病変が出現する場合もあります。その場合、頭痛や神経症状が出ますので気が付くはずです」

 「また、体内のどこかに微細細胞が残っている可能性はまだ十分にあります。さらに免疫グロブリンが少ないので、感染症に注意が必要です。カルテは英語版日本語版の両方を書きますが、使用しないことを願っています」

 丁寧かつ詳細に現状と今後の予想、心配なことを説明してくれた。感謝。本来なら「行くな」と強く言いたかったに違いない。しかしその主張に負けず劣らず、Yと私のハワイ行きの希望が強かったのだ。

 「行くことによってますます病状が悪化する可能性もあります」

 とも言われたが、場合によっては、この先長期に渡りハワイには行けない事態も予想されるので、あえてわがままを通すことにした。もちろん旅先でのリスクは、Yと私自身が全面的に負わなくてはいけない。覚悟の上である。

 11日(金)。ついに退院。次回通院は7月25日。その後は8月上旬から待ちに待ったハワイ。そして帰国後はすぐに再入院となり、治療が再開される。


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