5月に入り、Yはゴールデンウイークを利用して電車を使い、お台場で行われているフラダンスの発表会を友人と見に行った。しかし人が多いことや、現地であちこち歩いたこともあって、帰りは予想以上に疲れたようだ。
Y自身、この頃から体の変調が、ただの疲れではないと思えてきたらしい。しかし持ち前の楽天的性格が災いして、なかなか医者に行こうとしない。
行くように強く促して、ようやく行ったときも、「単なる疲れです」と自分から医者に申告して、疲労回復の漢方薬を処方してもらうだけだった。
ところが日を経るに従い、今度は食欲が減り、さらに家の外に出るのも億劫がるようになってきた。仕事帰りに、食事のための買い物を頼まれる回数が徐々に増えていった。
医者で精密検査を受けるよう促すが、こんどは逆に何か感じるところがあるのか、自身のフラの発表会が近づいていたせいか、なかなか行こうとしない。
そうこうするうちに、朝起きても動くのが辛くなり、終日居間の椅子に座り、だるそうな表情でぼんやりとテレビを見ることが多くなってきた。トイレに行く動作もかなり緩慢で、私も心配のあまり仕事どころではなくなってきた。
6月始め、Yがこれまで一生懸命練習してきたフラダンスの発表会の日を迎えた。
このころは「1日のほとんどを椅子に座っているような状態で、ダンスなど出来るのか」という不安もあったが、これまで必死に練習してきた経緯もあり、Yも「是が非でも出演したい」というので、支度をして発表会会場まで付き添った。
しかしダンスはなんとかこなしていたものの、動きがのろく、他の出演者からワンテンポ遅れたり、振り付けの左右を間違ったりしているのが傍目にもはっきり分かった。
その後、発表会に出演したことで気持ちに区切りがついたのか、ようやく医者に行き血液検査等を受けることになった。