急性腎不全

 6月8日(金)、私は仕事で忙しかったので、我が家から車で1時間ほどの所に住んでいるYの妹さんに行きつけの診療所まで連れて行ってもらい、一般的な血液検査、心電図、尿検査などを行った。

 この時も、疲れは発表会の練習のためだろうと、Yはたかをくくっていたようだ。実際私もそう思っていた。従って処方してもらった薬は、これまで通り疲労回復等の漢方薬のみであった。

 ところがである。翌日の9日(土)朝8時半、検査を依頼した医師から我が家へ直接電話があった。診療開始時刻前の電話に驚き、「これは何かまずいことでもあったのか」と思わず、返答する声がこわばってしまった。

 医師の話。

 「血液検査の結果、血液内のカルシウム値が異常に高く、急性腎不全の疑いが強いので、緊急入院の必要があります。近くの病院を紹介しますので、そこに行って下さい」と言う。

 なんといきなり緊急入院の指示だった。このときのカルシウムの値は16.8。通常の値は8.5から10.5の間だから、たしかにこの数値は突出して大きい。

 しかし電話を受けたときは、どのくらい危険な数値なのか、まだ本当の意味でよく分かっていなかった。

 ただ、「かかりつけの医師が朝早くわざわざ電話をしてくるのだから、緊急性はかなり高い」ということだけは分かった。とはいうものの私自身、緊急入院といきなり言われて、何を用意すればよいのか、さっぱり見当がつかない。ただただ焦りが先に立ってしまう。

 一方Yは入院になるとは想像もしていなかったので、着ていく服がないだの、化粧品道具を持っていかなければならないなど、私にしてみれば緊急性の「き」の字も感じられない言動を続ける。(女性として当然の反応なのかもしれないが)

 後日この時期のことをYに聞くと、「あまり記憶がない」という答えだった。もしかすると病気の進行で、若干意識が朦朧としていたのかもしれない。

 私は何となく胸騒ぎを感じて、早く病院に行きたくてしょうがなかったのだが、Yは頑なに「何が何でも持っていくんだ」と言い張る。

 やむなく一緒になって着ていく衣服を見繕っていた矢先、突然Yの足から力が抜け、「あっ〜!」と声を上げながら、体がぐずぐずと前のめりに倒れこんでいった。

 想像もしていなかった事態に、慌てて上半身を支えながら、心配のあまり思わず、「だからさっきから早く病院に行けと言っているだろう!」と大声で怒鳴ってしまった。

 怒鳴りながら、常日頃から明るく元気で屈託のないYと、目の前に倒れ込みそうになっているYとの、あまりの違いに、「いったいYの体の中で何が起きているのだろう」と、内心恐怖をも感じる。

 Yもさすがに自分の体が自分の意志で動かなくなったことに驚き、急いで身支度を済ませた。


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