8月8日(水)、転院52日目。
Yの体調がめまぐるしく変化するので、その話を私から間接的に聞いていた、心配性の私の母親が「胸が息苦しい」と訴え始めたので、いつもの診療所へ連れて行った。
心電図をとったあと、「あまりにひどければ、大学病院に行って診てもらった方が良いでしょうか」と尋ねると、即座に「そこまでの必要性はありません」というきっぱりとした答えが返ってきた。その言葉を聞いて安心したのか、母親も急に元気になってきた。やはり病は気からである。
一方、Yは、夜中に寝汗をかなりかいたため、朝方の体温は36.8度。朝食を少し食べることが出来た。体重も高栄養剤の点滴効果で増えてきた。
その結果、今日から元のソルデム、ビーフリードの栄養剤に戻った。もちろんブレドニンもある。10時に胸のレントゲン。すぐに結果が分かり、主治医が画像を見ながら、所見を述べてくれた。
「薄い影が見えますが、これは高カルシウム症が続いたときに、カルシウムが肺に沈着した痕跡のようです。残念ながら脾臓はまだ腫れています」
基本的に変わりはほとんどない。特に肺に沈着したと思われえるカルシウムの痕跡は、この後も常に話題になる。
肺の影を読むのは(読影というらしい)専門家でもひじょうに難しいらしい。不思議なことに影があるからといって、Y自身の呼吸が苦しいという自覚症状はまったくない。
酸素の血中濃度も常に97%以上であり、医師団もこの影については本当のところ何が原因なのか特定できないようだ。
Yは味覚異常が若干残っているものの、のどの痛みが消え、口内炎も見られなくなった。筋肉痛もなくなり、副作用が収まりつつある。ラステット連続投与まで、しばらく小康状態が続くだろう。
ちなみに本来の治療日数より、この時点で4日ほど遅れている。しかし、入院時の状態がひじょうに悪かったことを考えると、この遅れですんだのは奇跡的とも思える。
主治医も、「ひじょうに治療効果が上がっています」と少しばかり自慢げな言い方をしていた。血液検査結果を見ると、CRPは0.08と見事に収まっていた。
9日(木)、転院53日目。夕方病院着。
朝から平熱で体調には問題なし。一方、手足の先端がしびれてきたと訴えられる。抗がん剤の副作用である。
あらかじめ主治医から、抗がん剤の治療では手足に痺れが生じるということを聞いていた。しかもこの痺れの回復は、治療が終了してもしばらく続く。
初めは痺れを感じる程度だが、段々と力が入りづらくなり、細かい作業が出来なくなる。困ったのは、食べ物や飲み物のふたを自力で開けることが出来なくなったことだ。
特に、常に必要な水分補給のためのペットボトルは、健常な人間でもふたをとるのに結構な力が必要だ。
百円ショップの介護コーナーや、ホーム・センター等で介護のための器具をいくつか購入して試してみたが、なかなかこれはというものは見当たらなかった。福祉用品メーカーさんに、もう一工夫してもらいたいものだ。
一方、徐々に治療の効果が現れ、体力も戻ってきた。看護士さんの付き添いが必要なものの、病室から30メートル程離れた洗髪場まで歩いて行けるようになった。
ベッドの上からまったく移動できなかった入院当初に較べると見違えるような状況で、今後の回復への期待が家族共々高まってきた。